On the Homefront

東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

今学期の雑感

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 毎週日曜日、この時間になると、「明日からまた仕事か」という気分になる。教えている生徒たちが休み中にどのように過ごしているのか、そのようなことを想像し、かつまた時にはにやけながらも、「明日の一限は…」ということを一つ一つ考えはじめ、頭を仕事に戻していく。

 最初の記事で書いたように、僕は今、中高一貫校の教員をしている。今日はそのことにつき、つらつら書きたいと思う。

 すでに広く知られているように、学校は労働環境としては決して楽ではない。新米職員で、部活を任されていない(正確には、二学期まで「留保」されている)けれども、にもかかわらず、それなりに辛いのである。日々の業務で労働時間は大抵埋まってしまうが、それ以外のイベントに関わる業務がここに挿入されてくる。

 一学期は、新しく入ってきた高校一年生向けのオリエンテーション合宿を運営するとともに、裁判所への社会科見学を担当した。どちらも本当に面倒だった。

 とはいえ、前者を命じられたその瞬間は期待に胸を高鳴らせたのであった。というのも、僕は合宿という学校行事が大好きな生徒だったからだ。

 合宿の夜にはいつも楽しいことがあった。見回りの先生たちを気にして息を殺しながら、それでも大騒ぎしたり、寝ている友達にいたずらをしたりと色々なことが思い起こされる。いつもと異なる時間がそこにひらけていて、それを共有している共犯者の喜びが、僕と友人たちの間にあった。

 ただ、教員としてそれを引率するのは正直、もういいや、という気分である。様々な雑用の集積と、気の休まらない夜。「そうか、僕は生徒を寝かしつける立場になったのか」と今更ながら驚くような思いで、眠い目をこすって一つ一つの部屋を回った。

 「寝るか、寝ないで遊ぶかということは僕たちの自由だろう」と正面から論戦を挑んでくる生徒もいた。「きちんと眠らなければ、明日の行程に差し支える。この合宿は、決して遊びで来ているのではないのだから、夜休むというのもプログラムの一つであり、義務である。」という風に応対した。そしてこの応対をしながら、僕は自分のあまりにも教師然とした物言いにうんざりしてしまったのだ。うんざりしながら部屋に帰った。

 教員には個室が与えられていて、自分が生徒だった頃の、ワクワクする深夜の時間とは全く隔たった、孤独と生活の香りのする空間がそこにある。1時を回っているのを時計で確認してから、次の日の行程を改めて見直し、訪問先のチケットが全員分あるかを数える。純然たる労働であった。

 後者の、社会科見学のアレンジも、面倒といえば面倒な仕事だった。連絡を取って人数を告げ、当日の諸注意を聞き、あらかじめそれを周知して、連れて行く、ということに話はおさまらない。

 学校の枠内でやっている以上、何らかの教育的課題を設定することは必須で、それに連動して総合学習の時間に調べ学習をやらせる、その計画を立てなければならない。事前学習のために弁護士をやっている卒業生に連絡を取らなければならない。規程に乗っ取り、呼んだ弁護士の卒業生にいくらの謝金を払うか決定しなければならない。それに対して承認印をもらうために管理職まわりをしなければならない。

 うーん、うんざり。生徒のためになれかしと思うのだが、引率はとにかく注意を払わなければならないことが多すぎて、生徒の反応を伺う余裕などないのだ。 

 最後に、授業の方だが、今学期至極オーソドックスに黒板を使って教科書の文章を皆で読んでいくような形で進めた。熱心に聞いている生徒もいれば、全く関心のなさそうな生徒もいた。よろしい、これが学校である。

 授業に関しては、学生時代もバイトでことあるごとにやっていたこともあり、想像通り、という感じだった。

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 以上で終わりで、今は期末テストを作っている。本当になんの工夫もなく、列挙して終わりなのだが、そう言えば先週、ちょっと変わったことがあったので、それだけ書き留めておく。

 先週金曜日、僕が担任をしている教室の隣のトイレでコンドームを拾った。開封済みのものが、だらりと落ちていて、僕はためらうことなく素手でそれを拾った。生徒たちの数人が、それを袋から開けて、びろびろとだらしなく振り回して遊び、そのまま落としたかなんかで、そこに落ちていたと疑いもしなかった。

 だから、「男子校だよ、こんなの持っていてどうするの」と独り言まで言ったのである。そして言った直後、「男性同士の性交渉でも使うのでは?」と思い当たり、固まってしまった。

 もしその独り言をたまたま誰かが聞いており、そしてたまたまその子が「男性」とは異なる性自認を持っていたら、僕の独り言は問題になっていたかもしれないと思う。いや、もう時代が時代だから、どのような生徒に聞かれていても、問題となっていたかもしれない。幸い、誰も聞いていないようだった。

こういう事柄は本当にデリケートに扱わなければ、と感じたのだった。