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東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

大急ぎロシア観光 その3:チャイコフスキーの家博物館

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 ロシア2日目はモスクワをちょっと離れ、クリンにあるチャイコフスキーの家博物館を目指す。ホテルから目的地まで2時間くらい車に揺られていくのだが、例によってモスクワ市内は大渋滞、それを抜けると大爆走。

 おかしな話だけれど、市街地を一歩出ると急に懐かしいような気持ちになる。郊外の風景は一見、規模のバカでかい東北地方のような趣だ。畑があって森があってぽつりぽつりと家がある、地元の風景ってそんな感じ。ここもそう。

 もちろんよく見るとここは日本ではない。まず、山がない。これが決定的に違う。帰国してから地元に行って、日本はマジで山だらけなんだなあと感心してしまった。もうなんていうか、日本にいるときよりロシアにいるときの方が地球の直径が大きいんじゃないかね。山がないということは、空が広いのだ。

 山がない代わり、ひたすら平原が続く。そしてうっそうと茂る白樺。小学生のころよく聞いた「トロイカ」の歌詞を思い出す……雪の白樺並木、夕日が映える……音でしか覚えていなかった歌詞が実際の景色と結びついて立体的になる。雪の白樺並木! あー、あの歌が言っていたのはこの風景のことだったのかー。生きていると「知っていること」が「分かっていること」になる瞬間というものがあるものだけれど、それを味わえたときの高揚感といったら、それだけでもロシアに来てよかったと思えるくらいだ。

 

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 チャイコフスキー博物館では、いかにも「ロシアのおばちゃん」然としたひげの濃い女性が敷地内を案内してくれた。作曲家の死後、弟モデストが晩年の住まいを博物館として整備したのだが、こういった偉人にまつわる博物館を作ったのはロシアでは彼が初めてだったのだそうで、モデストはロシアにおける記念博物館の父とも言われているとのこと。

 館内は土足禁止なのでスリッパに履き替える、のではなくて靴を履いたままその上にビニールのカバーをかぶせる。靴は脱ぎません。最初の部屋で、写真でよく見るチャイコフスキーが着ていた服や帽子や杖がそのまんま展示されていて、来館者を出迎えてくれる。

 作曲家ゆかりの品という意味でももちろん興味深いんだが、19世紀の生活ってこんな感じだったのかという視点で見ても十分面白い。重そうな文机があったかと思えばベッドは簡素で小さく、巨大なトランクは幾多の演奏旅行でぼろぼろ。私のスーツケースは軽くてコンパクトでよかったなあ……。朝の時間を過ごしたというベランダにはティーセットが置かれていた。ロシアではお茶をカップになみなみ注ぐのがマナーらしくて、受け皿がかなり深い。こぼれた分は皿からもすするのかしら、気になったが聞きそびれてしまった。

 ロシアでも大作曲家といえば誰を差し置いてもチャイコフスキーというほどの人物ではあるが、それが世界中どこに行っても大人気なんだなあと感心してしまった。NYのカーネギーホールこけら落としもチャイコの演奏会だったのだ。訪問先の都市で歓迎され、持ち帰ったお土産の品々もそこらじゅうに飾ってあった。

  小さい林のような庭には、ところどころ若い植木がある。チャイコフスキー国際コンクールの優勝者が毎回ここに木を植えていくのだそうだ。それからバカでかいチャイコフスキー銅像もあって、ここでは隣に座って写真も撮ってもらった。そういう感じで人間がキャッキャしているところ、足下では猫がうろついていたりして、ガイドさんがニャオちゃん、ニャオちゃんと声をかけてもまるで構わず悠々と歩いてどこかに行ってしまう。猫はどこに行っても猫だなあ。

 

 後で気がついたが、フロントで借りられる音声ガイド数カ国語の中には日本語のものも用意されていた。ロシアに来てからはどれほどの観光地でも日本語を見る機会など全くなかったので、ちゃんと日本語版があることにちょっと驚いたのだが、ここには日本からの観光客もよく来るのだろうか。

 とまあチャイコフスキーの家博物館は半日でもいっぱいいっぱいのボリュームで、本当はもっと見所があったのだが、今回はこのへんにします。ロシア観光、まだまだつづく。