On the Homefront

東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

好きな季節

 放っておくと愚痴っぽくなるので意識的に好きなものの話を書くことにする。

 突然季節が変わって、肌が寒さを感じ取った瞬間、反射的に心が高揚する。10月くらいの空気が一年で一番好きなんだよなあ。夏が遠ざかっていくのを感じられるのが好きだ。

 

 まあやっぱり暑いのが苦手だからというのは大きい。やっと汗の季節から解放されると思うと、それだけで十分好きになるに足るすがすがしさなのだ。

 あるいはもっと積極的に、冬が好きだから。年賀状書いたり鍋食べたりスケートしたり、冬にまつわるもののことを考えるとなんとなく心が踊る。でもいざ冬になると、やはり寒いし、雪も大変だし、何より冬が来たということは、もうすぐ冬が終わってしまうということだ。何事でもそうなのだが、楽しいことは「始まる前」が一番楽しい。昔から、週末の休日よりも木曜日くらいの方がワクワクすると思うような子供だった。だから、日暮れがみるみる早くなり、冬の訪れを感じていられるこの季節が好きなのかもしれない。

 10月には具体的に楽しかった記憶があるからかもしれない。中学生のころ、10月といえば文化祭のシーズンだった。今思えば……と、振り返るほど昔になってしまったのが信じられないんだけど、私にとってはあれほど楽しい時期はそうそうなかった。学校中どこに行ってもやるべきことがあったし、どれも自分がやりたくてやっていることばかりだった。

 それほど中学校に楽しい思い出があったわけではないと思っていたのだが、実際に振り返ろうとしてみると、高校や大学をまるで通り越して中学のことばかり思い出してしまうのが不思議だ。文化祭の準備が終わってすっかり真っ暗になった通学路で、素肌を出しているとちょっと寒い、でも動き回って温まった体にはそれがかえってちょうどいい、10月の帰り道。そういう肌の感じが、中学生のときの楽しかった記憶と一直線に紐付いているから、この季節が好きなのかもしれない。

 

 どの季節が好きかなんて、実は20年くらい生きてきてやっと答えられるようになったばかりなのだ。一年をいくつか束にして俯瞰して見ることができなければ、季節に評価も与えようがない。かつて季節はそれぞれ一つずつやってくるものだった。もちろん夏とか冬がどんなもので、どのくらいのペースで回ってくるか、ということは理屈の上では分かっていたわけだが、実際に認識している季節は、小学1年の夏休み、6年の正月、みたいにそれぞれ個別の事象だった。抽象的な概念としての季節を、毎年の実感と結びつけて認識できるようになったのは、つい最近やっとのことだと思う。

 で、そう感じられるようになって今、私は10月の空気が一年で一番好きだ、という結論に達したところなのだ。それでせっかく楽しみにしていた10月なのに、今年はちょっといきなり気温が下がりすぎて、あの好きな空気をあまり感じられない。どうもやっぱり愚痴っぽくなってしまうな。