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東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

あけましておめでとうございます:経済分野の新書を読んで迎えた年始

 あけましておめでとうございます。

 年末年始はだらだら本を読んだり映画を見たりし、その合間に美味しいものをしこたま食べるなどしていたら終わっていました。そう言えば、お風呂屋にも三回行きました。以下では、読んで面白かった本を紹介します。なんとなく経済の本を読もうと思い立ち、2冊読んでみました。

 

本:志賀櫻『タックス・ヘイブン−−逃げていく税金』

 これは相当面白かった。国際的なお金の流れと、それを規制しようとする法・政策との関係が素人にもわかりやすく書かれていた。  

 

タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)

タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)

 

 

 裏社会が関係する漫画や映画を観たりすると、よくスイスや太平洋の島々の金融機関にマフィアのお金が云々とかいう話が出てきたりして、これまで全く理解していなかったのだが、この本をよんでそういうお金の流れがよくわかった。この本を読むまで、不正に稼いだお金は、保管も使うのも難しいという前提がわかっていなかったので、「スイスに口座とかってなんなの?」状態だったのである。

 

※ちなみにそんな当たり前の前提すらわかっていなかった私が観たりした「裏社会が関係する漫画や映画」とは例えば『攻殻機動隊』とか、映画「ボーダーライン」とか、『闇金ウシジマくん』とか。どれも、後述する「マネーロンダリング」に関する知識があればもっと楽しめたのに、とこの新書を読み終わったあとになって思う。

 

 不正に稼いだお金は、一旦その出どころがわからないように洗浄=launderする必要がある。ここで出てくるのがよく聞く「マネーロンダリング」なのだが、その手法として、お金の流れを秘密にする法律やそれに類するものがある「タックスヘイブン」と呼ばれる地域の金融機関に預けたり借り入れたりするという方法がとられるとのこと。

 例えば日本の金融機関にお金を大量に預けると、そのことが税務署等に知れ、どうしてその人が突然そのように大金を持つに至ったのかということが明示的・非明示的に問いに付されるのだが、一旦タックスヘイブンに入ってしまったお金に関しては、金融機関の情報を秘密にするというその地域の法律に守られ、その流れが見えなくなる。こうしてタックスヘイブンは間接的に犯罪を幇助するような機能を持ったりする。

 ちなみに筆者はこのようなタックスヘイブンを批判する立場。もちろんただ批判しているのではなく、金融情報を秘密にする法制を作ることで他の場所では不可能な取引の場を作り出し、手数料収入等を稼がなければやっていけないという各タックスヘイブンの経済状況改善を同時に世界が考えなければいけない、というご意見である。

 

本:本山美彦『金融権力−−グローバル経済とリスク・ビジネス』

 先に紹介した『タックス・ヘイブン』で「もっと経済のことを知りたい」という気分になったので、数年前に序盤だけ拾い読みしてそのままにしていた本山美彦の『金融権力』を読んだ。

 

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

 

 

 これも本当によい本だった。以前読んだのは、サブプライムローン問題を皮切りとし、現代の金融界における格付け会社の役割とその功罪や、格付け会社が必要とされる背景となる、利ざやを稼ぐことをその至上命題としたヘッジファンド等の投資家たちの行動原理が紹介された序盤。

 序盤を過ぎると、序盤で紹介されたような状況がどのように生じてきたか、そして経済学がこれらの新たな状況の中でどのように発展してきたかということが説明される。素人には難しいところもあるが、著名な学者たちの個人史や彼らがいかに考えたかということがコンパクトにまとめられており、一応わかったような気分にさせてくれる。

 と紹介してくると、本書は客観的な立場に立った現在経済を観る上での指南書のように思われるだろうし、序盤だけ読む限り、そうだろうと思っていたのだが、中盤あたりから、著者が部分部分で割と強く自分の考えを主張する本であるとわかってくる。

 そもそも金融は、人々の生活をよりよくする発明等を行う潜勢力を持つにも関わらず、資金が手元にないのでできないような人に、お金を「融」通するためにあるという前提に立てば、そのような金融の役割を無視し、ルールの網をかいくぐって利ざやを稼ぐ行為は倫理的にはよくないものの方に位置付けられることになる。

 利ざやを稼ぐという行為が、結果的にお金のないところにお金をもたらす方向に向かえばよいのだが、現実はそうなっていない。むしろ、アジア通貨危機などの例をみれば、利ざやを稼ぐことを至上命題とする行動は、社会の安定や発展を阻害することになりかねない。

 著者はこのように、金融の世界における権力者たちの行動を明確によくないものの側に位置付け、そうではなく、みんなでお金を融通しあってよりよい社会を作ることはいかにして可能かということを問う。本書後半部では、そのような試みとして、NPOバンクなどが紹介される(ちょっと調べた限りでは、本書後半部で紹介されるより良い社会を作るためのオルタナティブな金融的試みは、あまりうまく行っていないみたいだが…)

 私はどちらかというと「岩波的」とされる思想に共鳴するところは多く、この本を読んでいても大いに頷いてしまった。個々人の自由な経済活動の追及が公益には通じないことも多くある。そこをつなぐ聡明な政策があれば問題は解決するのだが、それを期待するのは難しそうである。

 結局自分のした行いが回り回ってどの人々にどのような影響を与えてしまうのか、ということに関し、想像力を持つことが重要だなと思う。しかし、「自分はそういった想像力を持っている」という人々が往往にして一番盲目だったりするのであり、私益を追求しながらいかにして倫理的でありうるのか、ということに関しては、きちんとどこかで考えなければいけないなと思っているところ(こんな書き方では「きちんとどこかで考えなければいけないな」といかにも思ってなさそうだが)

 

今年もよろしくお願いします。

 

 以上、いずれも良質な読書体験でした。今年も色々な本を楽しみながら読めるといいなと思います。本年もどうぞよろしくお願いします。