On the Homefront

東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

ためしに読書記録〜読書の秋とわからない季節感〜

めちゃくちゃサボってました(すみません)

 

(最後に投稿したとき、めちゃくちゃ暑かったときの話をしたのに信じられないくらい寒くなってしまいましたね……)

 

インターネットに何か投稿ないし送信するとき、後から見たときに、なんかそこに等身大の自分の石像のようなものがグロテスクなほど強固に存在していて、一応自分の顔が、エクスキューズを口にできないその顔がしきりに瞳で訴えてくるようなさまと向き合わなければならないような気がして、(あるいはせっかくなのだからすごいログを残すべきなのだろうという、功名心なのか何もしないための言い訳なのか判然としないものがあり)それを抱えているような気がする。その姿が自分にしか見えないのならば、幻視と言っても医学上問題なかろうし、操作的にはひょっとすると守護霊じみたマスコットキャラクターとして捉えた方が有効かもしれない。登場人物たちが敵の変態キャラによって次々と石像にされてしまう回はトラウマだったけど、アニメの主人公は謎の精霊と数値化不能の絆で悪を倒すのだ。よくわからないですけど、今日は書いてみようと思った。

 

何も言ってないのとほぼ同じかも知らないですが、やはり小説を読まなかったり読めなかったりする時期はあり、私は江藤くんほど読書してないという自己評価なのですが、最近やや読んでます。

 

直近で読んだポール・オースターの『ムーンパレス』は、声優の番組で知った本だった。斉藤壮馬さんという声優で、この方は早稲田大学の文学部を出ていて、いわゆるアニメファンの間ではアイドル的人気も誇る男性声優だ。声優のラジオで「柴田元幸先生が訳されてて〜」とか聞けるのは、不思議なもので、妙に気分が高揚するので耳が幸せということなのかもしれない。

 

ポール・オースターは、周囲に何人かいる村上春樹好きの知人に勧められたことがあったような気がするし、自然に考えればあっただろうが、読んだことがなかった。個人的にアメリカ人の作家でハマった人がほとんどいなかったというのがある気がする。フォークナーやヘミングウェイを何冊か読んだことはあったけれど、あったのは確かだと思うけれど、ただスペインの牛追い祭りとか広漠たる森とか漠然としたイメージが思い出されるだけで、情緒的には残っている印象がない。サリンジャーは『フラニーとゾーイ』も『ナインストーリーズ』も静かに熱狂して面白く読んだ覚えがあるが、勝手なことに自分の中でサリンジャーは米文学とカテゴライズされてない。そういえばフィッツジェラルドの『グレートギャツビー』は高校の時に読んだな。

 

とにかく、いい機会にと読んでみたので、感想を書きたいと思うのですが、前置きの長さに比して、感想、というか印象は短すぎるかもしれません。

 

まず今回の読書は、サリンジャーとかを読んだときのように啓示を受け取る感受性で読んだわけではなく恐らく、ちょっと気になっていたアメリカ文学、というか世界文学をちょっと気になる声優が紹介してたし、読もうという気分でした。フィクションの世界の光を浴びる、言葉の海で泳ぐという感じではなく、現実世界との距離を掴む読書というかたちというか。実際お湯を沸かしたりアプリゲームでオートプレイしながらだったり実際きわめて不真面目な読書態度だったので、叱られても文句言えないでしょう。

 

さて感想ですが、斉藤壮馬さんが言っていたように読みやすい小説でした。抽象的にいうと、人間が苦しんだり恋したり冒険したり常識外れの行動をしたり自由を追求したりする様子が具体的に早い展開で描かれていて飽きずに読めます。もう少し具体的に言うと、特に前半部の退廃したインテリの生活日記と形容したくなるストーリーは、一部のUTクラスタ(ギャグ的な態度でツイートを投稿し人気を誇る東大生のツイッターユーザー層のこと)を思わせます。主人公の自分を世界史のなかに位置づけて生活の出来事を思弁的に綴るようすは笑えますし、展開も深刻で、御都合主義的ではないように感じられて、最後まで一気に読めるような感じでした。

 

少なくとも今の私は読書体験のなかで、その周縁的なものを重視しているのかもしれない、なんの根拠もありませんが、昔はサリンジャーを読んだときはそんなことはなかったような気がする。今回は読んでいて、斉藤壮馬さんはどう読むんだろうと気になりながら読んでいた。だからだと思うが、作中に頭がおかしくなって子供の名前すら分からなくなってしまった母親が登場するのですが、ちょうどちょっと前に読み返した種村有菜さんの漫画作品『紳士同盟†』(集英社のりぼんで連載されていた少女漫画)にそんな母親が登場して、私が斉藤壮馬さんを知ったのは種村有菜さんがキャラクターデザインを担当するアイドリッシュセブンというアプリゲームなので、そのようなかたちで、私は現実世界で読書体験をしたということになる。