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東京大学文科3類ドイツ語クラス卒業生の共同ブログです。個々人が、それぞれに思うことを述べていきます。

大急ぎロシア観光 その4:本屋と文房具

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 モスクワ滞在最後の半日は、一人で街をぶらぶら歩くことにした。楽しみにしていたのはなんといってもДом книги(ドム・クニーギ)、「本の家」……要するにでっかい本屋だ。ロシア語の授業で先生に紹介されて、ずっと行ってみたいと思っていたのだ。なーんて気取ったところでロシア語の本なんか読めやしないんだけどさ。

 新アルバート通りという大きな通り沿いにある大きな店舗で、「赤の広場」から歩いても行ける。地図に弱い自分でも迷わずたどり着けたが、道路を渡るのに地下道の入り口を探さなければならなかった。この日は雪がチラついていて、チラつくだけならいいんだがだんだん吹雪いてきたりもして、季節は完全に冬。上着のフードだけで雪を凌ぐには歩き続けるのがつらくなってきたころに、地下に潜れるのがちょっとありがたかった。

 

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 ドムクニーギ、2階建ての明るい店内はちょっとしたショッピングモールのような広さ。1階には本だけでなくおもちゃやインテリアやお土産売り場まであり、もうこれは何時間ここにいても飽きないなと一目見て思う。とりあえず2階の本売り場から物色してみることに。

 キリル文字の読解力を総動員してなんとかタイトルを読み解き、本棚を眺めているだけでもこれが十分面白い観光地なのだ。例えば音楽書にしても、さすがにチャイコフスキーは人気だなとか、プロコフィエフも負けてないなとか、あとはやっぱりバッハ、モーツァルトベートーヴェンは外せないんだなーとか、それなりに発見があるものだ。もちろん中身が読めればそれに越したことはないんだが……。文字をを追うのに疲れてきたあたりで、装丁の可愛らしさに心ひかれて、ピアノでかんたんに弾ける子供向けの『展覧会の絵』の楽譜を買った。五線譜は世界共通だからね。

 子供向けといえば、話は逸れるが、アメコミヒーローやディズニーキャラクターはロシアでも定番らしく、コミックやおもちゃがあちこちで売られていた。それにしても、この国に来てからというものマンガをほとんど見かけない。というのはコミックブックのことではなく、マンガ的なイラストが全然ないのだ。街中の広告もだいたい文字と写真ばかりで、「ゆるキャラ」のようなイラストすらほとんどお目にかからない。当然、日本のアニメ絵のようなイラストはどこにもない。児童書も何冊か見たが、軒並み挿絵が教科書っぽかった。まあこれはロシアの特徴というより、日本の方が特殊なのだろうけれども。ピカチュウハローキティはだいたいどこのお土産屋にもいて、その人気のほどに驚かされた。

 

 話を本屋に戻すと、その後あちこち見て回った末に、読めやしないと思っていたのに結局ロシア語の本を買ってしまった。『日本語ぺらぺらの為の二つの語根からなる言葉』……ロシア語話者向けの日本語学習のテキストなんだが、「ぜんぜん」とか「どきどき」とか「ニャーニャー」とかそんな語彙ばかり集めて解説した本で、なんかちょっとワクワク、ニヤニヤしてしまうじゃないですか。

 この本はそうでもなかったが、日本語の語学書の表紙はだいたい富士山に桜に真っ赤な鳥居とかそんな感じで、あまりにもいかにもいかにもなのでちょっと面白かった。まあ、日本のロシア語のテキストもだいたいマトリョーシカなので、同じことなのだ。

 

 白状すると、ここへ来た一番の目的は本よりも文房具だった。いっぱしの文具マニアとして、お土産グッズではなくロシア人が日常的に使っている文房具をこそ見てみたいのだ。日本でも輸入文具を扱う店はあちこちにあるが、ロシアのメーカーってまるで聞いたことがない。これはもう、現地調査するしかないというわけです。

 結論。1階の文具売り場に並んでいたボールペンやシャープペンシルの類は、ほとんど外国メーカーであった。外国というか、日本メーカーのペン。それもよく見慣れたパイロット、ぺんてる三菱鉛筆、ゼブラ、などなど。マジかー!!

 日本で買えば100円か200円くらいの、一番シンプルな事務用筆記用具といったタイプのペンがざくざく並んでいるのだった。値段は200ルーブル程度(1ルーブルがだいたい2円くらい)と若干割高だったものの、製品自体は日本で手に入るものと何一つ変わらない。多少ラインナップは古かったかもしれないが、そのくらいだ。

 もちろん日本メーカーのものだけではなく、スペインのMILANやフランスのBIC、ドイツのSTAEDTLERなどヨーロッパのおなじみのメーカーもたくさんそろっていた。しかしいずれにせよ日本でもよく見かける製品ばかりだ。珍しかったのはMade in Turkeyと書かれた派手な鉛筆くらいか。ロシア国産のペンなどは、探した限り一つも見つけられなかった。マジかー。拍子抜けといえばそうではあるが、日本のそんじょそこらの文具売り場よりも商品の数はずっと豊富で、海外にいることも半ば忘れて文具漁りに没頭してしまった。

 

 「書く」ものに関してはそんなところだったが、「書かれる」ものの方は期待通り、日本では売っていないようなノートやメモや手帳にたっぷりお目にかかることができた。メイドインロシア製品もたくさんあって、デザインもかわいいものばかりで心が躍る。キリル文字のキャラクターが描かれたノートなんか、現地の子供向け学用品なのかもしれないが、値段も手頃なので目移りしてしまった。いかにもロシアロシアしていなくてロシアっぽく、ちょっと見かけないような文房具が手に入るとなると、ふつうにお土産としても重宝しそうだなあ……と思いつつ、つい自分へのお土産ばかり買い込んでしまう。ドムクニーギ、やっぱり何時間いても飽きないお店でした。

 

 大急ぎロシア旅行、まだつづきます。